
──「人が足りない都市」と「仕事が足りない地方」が同時に起きる未来──
建設業はこれから、
かつてないほど大きな“二極化”の波に直面します。
それは、
都市部は「人が足りない」
地方は「仕事が足りない」
という、相反する課題が同時に進行するという現象です。
人口減少、都市集中、地方の過疎化、インフラ老朽化──
これらすべてが複雑に絡み合い、
建設業界の構造自体が大きく変わろうとしています。
本コラムでは、
都市と地方の明暗がなぜここまで分かれ始めているのか、
そして企業がどのようにこの“二極化時代”と向き合うべきかを
深く解説します。
1. 都市部:仕事は増えるのに“人が圧倒的に足りない”
まず都市部。
東京・大阪・名古屋・福岡などの主要都市では、
・再開発
・高層ビル建設
・交通インフラ整備
・住宅需要
・商業施設の新設
・IR計画
など、建設需要が高い状態が続いています。
にもかかわらず、深刻なのは
人材の確保がますます難しくなっていること。
都市部は給与水準が高く、
仕事量も安定しているにも関わらず、
●若者が建設業を避ける
●技能者の高齢化
●外国人材の奪い合い
●大手ゼネコンに人が集中
といった理由から、中小企業は採用に苦戦。
さらに都市部は“街が大きく動き続ける”ため、
・工期短縮
・品質要求の高度化
・多様な職種の連携
・テナント入れ替えに伴う工事の増加
など、仕事のスピードと難易度が年々上がっています。
つまり都市部の問題は、
「仕事が多すぎて、回せる人がいない」
という人材危機なのです。
2. 地方:人はいるのに“仕事が減少し続ける”
一方、地方では真逆の問題が起きています。
・人口減少
・若者流出
・住宅着工数の減少
・商業施設の縮小
・企業の撤退
これにより、
地方の工事量は年々減っていきます。
地方の建設会社は、
●技術力はある
●人員も揃っている
●地域での信頼も厚い
にもかかわらず、
「そもそも仕事がない」
という状況に追い込まれています。
さらに、地方の建設需要は
・公共工事
・老朽化インフラの維持管理
に依存する割合が高く、
景気や政策によって上下しやすいというリスクも抱えています。
地方の課題は、
「仕事量の減少」×「市場の縮小」
という深刻な構造問題です。
3. この二極化は“人口構造”がつくり出す必然である
都市集中と地方衰退は偶然ではなく、
人口動態がつくり出す必然的な流れです。
・若者は都市に集まる
・都市は再開発が続く
・地方は高齢化で住宅需要が減る
・投資が都市に集まり、地方は縮小
そして建設業も
この人口移動の影響を強く受けます。
4. 二極化によって起きる“構造的な3つの未来”
これから建設業界には、
次の3つの大きな変化が訪れます。
① 都市部は“採用できる会社しか生き残れない”世界になる
都市では、
職人の奪い合いが激化します。
・給与競争
・条件競争
・人材紹介費の高騰
・外国人材の採用難
特に中小企業は、
採用ブランディングが弱いと
完全に人材が確保できなくなる。
つまり都市部は、
「人材確保力が生存条件になる」
という世界です。
② 地方は“経営の多角化・事業転換”が必須になる
地方で勝ち残るためには、
・リフォーム
・メンテナンス
・不動産管理
・空き家再生
・地域密着サービス
・新エネルギー関連
など、事業の幅を広げる必要があります。
地方の未来は、
「総合力のある地域企業」だけが残る。
③ 都市×地方の“連携モデル”が増える
都市部は仕事が多いが人が足りない。
地方は人がいるが仕事が足りない。
この構造が進むと、
・都市部が地方企業と協業
・地方企業が都市の仕事を請け負う
・技術応援の流動化
・ITによる遠隔管理の普及
など、地域を超えた連携が進んでいく。
これは
中小企業にとって大きなチャンスです。
5. “採用の地域差”も二極化する
採用における都市と地方の差も
これからさらに広がります。
■ 都市:応募が集まらない
理由 → 同業他社が多く、若者が少ない
求められる対応 → 採用ブランディング・環境整備・SNS戦略
■ 地方:応募は来るが、定着しない
理由 → キャリアの先が見えない・給与が伸びにくい
求められる対応 → 教育制度・評価制度の整備
つまり、
都市は“集める力”、地方は“育てる力”が勝負。
6. 建設企業が今から取り組むべき戦略はこれだ
都市と地方、どちらの企業にも共通する
“二極化時代を生き抜く戦略”があります。
① 自社の強みを言語化し、採用ブランドを確立する
・給与
・教育
・人間関係
・会社の理念
・働く雰囲気
これらを“見える化”できる会社が勝つ。
② SNS・動画で“会社の空気”を伝える
若者採用は
企業の雰囲気が9割。
都市部も地方も、
SNSの活用は必須です。
③ 多能工・中堅層の育成で“現場力”を底上げする
都市→人が足りないから効率が求められる
地方→少人数で回す現場が増える
どちらも“多能工化”が必須になります。
④ 事業ポートフォリオを広げる(特に地方)
仕事が減る市場に依存していては未来がありません。
・リフォーム
・インフラ維持
・空き家事業
・エネルギー関連
・地域サービス
こうした事業へのシフトが重要です。
7. 結論:建設業は“二極化を前提にした戦略”が必要な時代へ
都市は仕事が多く、人がいない。
地方は人がいても、仕事がない。
この二極化は
今後さらに強まっていきます。
この構造の中で生き残る会社は、
✔ 自社の強みを明確化し
✔ 採用ブランドをつくり
✔ 人材を育て
✔ 事業の幅を広げ
✔ 地域を越えた連携を進める
そんな“変化に強い会社”です。
二極化は危機でもありますが、
戦略を持つ会社にはチャンスが広がる時代でもあります。

