
──安定しているようで最も不安定なのが“公共一本”という現実──
建設会社の中には、
「公共工事がメインだから安定している」
という感覚を持つ経営者は少なくありません。
確かに公共工事は支払いが確実で、
倒産リスクも低く、
元請けとの関係が安定していれば一定量の仕事は確保できます。
しかし、実際のところ──
“公共工事一本”は最も危険な経営構造である。
理由は明確で、
公共工事は外部要因(政治・予算・景気)に左右され、
会社が努力してもコントロールできない領域が広いからです。
本コラムでは、
公共依存企業が抱えるリスクと、
今から備えるべき「分散戦略」を解説します。
1. 公共工事依存が危険な最大の理由は“予算の揺れ”
公共工事は予算次第で仕事量が大きく変わります。
特に、
・国の財政状況
・地方自治体の税収
・インフラ投資方針
・競合の増減
こうした外部要因が直接影響します。
会社がどれだけ優秀でも、
予算減少には抗えません。
たとえば…
●景気悪化
→ 建設投資が削られやすい
→ 公共予算の縮小
→ 入札競争の激化
●災害特需の終了
→ 一時的に増えた仕事が急減
これらは過去に何度も起きています。
つまり、公共工事依存は
“会社の命運を行政に握られる構造” なのです。
2. 技術者・職人の稼働率が“予算任せ”になる危険性
公共工事が減ると、
職人・技術者の稼働率が一気に下がります。
しかし人件費は固定費なので、
仕事が薄くなると赤字化が加速します。
特に大きな問題は、
●季節によって稼働が乱れる
●元請けの発注が読めない
●現場開始までの空白期間が発生しやすい
いわゆる “谷の期間” が増えると、
会社は一気に苦しくなります。
3. 公共メイン企業は“営業力が育たない”という構造的問題
公共工事は、
発注側から仕事が降ってくる構造のため、
・自社の提案営業
・新規顧客開拓
・Web発信
・ブランド力構築
これらのスキルが育ちにくい特徴があります。
つまり、
公共が減った瞬間に市場で戦えなくなる。
そして実際に、
・民間工事の単価で負ける
・見積りが遅い
・営業先がない
という課題を抱える会社が多いのです。
4. では、どうリスク分散すべきか?
答えは「3つの柱」を同時につくること**
公共依存から脱却するには、
以下の3つの柱をバランスよく育てることが最重要です。
【柱①】民間工事の受注比率を上げる
民間工事は景気に左右される側面はありますが、
受注の自由度が高いのが最大のメリット。
特に有効なのは、
・商業施設
・店舗内装
・オフィス改修
・マンション修繕
・小規模リフォーム
公共より単価は低めですが、
利益率を確保しやすい点が強み です。
【柱②】“元請け化(小規模元請け)”を始める
すべてを元請け化する必要はありません。
むしろ最初は小規模でOK。
例:
・個人宅の修繕
・店舗の小規模改装
・雑工事の直接請負
元請け化のメリットは絶大で、
●利益率が上がる
●顧客との関係が強化される
●景気や予算による受注変動が減る
“下請け100%”から脱却するだけで、
会社の体質は強くなります。
【柱③】自社ブランド・営業力の構築
公共依存企業が最も弱いのがここ。
営業力が弱い=民間が獲れない
という悪循環に陥ります。
今すぐできる取り組みとしては…
・SNSで現場の実績紹介
・施工写真の整理
・ホームページの強化
・Googleビジネスプロフィールの最適化
・お客様の声の収集
・地域密着ブランディング
これだけでも問い合わせは増えます。
特に中小建設会社は、
“地域×専門性”の掛け算が最強。
“堺市×軽天工事”
“大阪×マンションリフォーム”
など、専門色を出すだけで
民間仕事は驚くほど取りやすくなります。
5. 公共と民間をミックスすると“事業の安定度”が劇的に上がる理由
事業が安定するポイントはこれです。
●公共は年間の売上を安定させる
●民間は利益率を高める
●元請け化は顧客基盤を強化する
この3つが揃うことで、
受注量・利益率・稼働率のすべてが安定する
公共だけ、民間だけでは不安定ですが、
ミックスすると鉄壁になります。
6. いきなり比率を変えなくていい。まずは“1割の分散”から
いきなり公共依存から
大きく方向転換する必要はありません。
むしろ危険です。
最初はこうで十分です。
・公共90% → 民間10%
・民間0件 → 毎月1件受注
・営業経験ゼロ → SNS週1発信
・元請け経験ゼロ → 年3件だけ小規模請負
重要なのは、
「依存からの一歩目を踏み出すこと」 です。
7. 結論:公共工事は守りながら、“選択肢を増やす”のが最強の経営
公共工事は素晴らしい市場です。
しかし 一本足打法は危険 です。
会社を強くするのは、
●受注先の分散
●利益源の分散
●技術の分散
●営業チャネルの分散
これらを同時に行うこと。
そしてそれは、
今日から少しずつ始められます。
公共依存を“やめる”必要はありません。
ただし“公共だけ”では会社は守れません。
公共を土台にしながら、民間・元請け・ブランドの3軸で事業を積み上げる。
この戦略こそが、
これからの中小建設会社に必要な“生存戦略”です。

