
──これからの現場が求める“新しい職人像”とは?──
かつての建設現場は、
「専門職が専門だけをやる」という
強固な“分業制”の世界でした。
大工は大工の仕事だけ、
軽天は軽天、
設備は設備、
電気は電気。
職人の専門性は深く、
その道を極めることが価値でした。
しかし今、その構造が大きく変わり始めています。
現場では
「分業」から「融合」へ。
職人の“多能化(マルチスキル化)”が急速に進んでいます。
なぜ多能工が求められるのか?
なぜ今までの分業制が限界を迎えているのか?
本コラムでは、
建設業が抱える構造変化と
これから求められる“新しい職人像”について深掘りします。
1. 多能化が進む最大の理由は「人手不足の深刻化」
建設業の人手不足は、数字以上に危機的です。
・20代職人は年々減少
・団塊世代が大量に離職
・新規参入者が少ない
・現場の数は減らない
つまり、
“1職種=1人”では回らない現場が増えている
という状況です。
分業制の弱点は、
「その職種がいなければ現場が止まる」こと。
軽作業ひとつ進まない。
工程がズレる。
段取りが崩れる。
人手不足の時代、
この硬直性は致命的です。
そこで求められるのが、
「一人で複数の工程をカバーできる職人」=多能工
というわけです。
2. 工期短縮・効率化の流れが多能工を必要とさせる
現場は今、
以前よりもスピードを求められています。
・工期短縮の圧力
・コスト削減
・現場数の増加
・元請けの管理体制の変化
この中で分業制を続けると、
●職種ごとの待機時間が増える
●小さな作業でも“専門職待ち”になる
●工程管理が複雑化する
現場の段取りが難しくなっていきます。
しかし多能工がいれば、
・ちょっとした作業をその場で完結
・工程のつなぎがスムーズ
・現場のスピードが上がる
・手待ちが減る
つまり、
多能工は現場全体の生産性を押し上げる存在
になるのです。
3. “多能工=器用貧乏”の時代は終わった
かつては、
「あいつは何でもやるけど専門性がない」
という見られ方もありました。
しかし今は逆。
●多能工は現場の価値を高める
●工期短縮に貢献できる
●採用・教育の面でも重宝される
●現場監督からの評価も高い
つまり、多能工は
“現場の中心的存在” になりつつあります。
多能工の市場価値は年々上昇しており、
給与が最も上がりやすいのもこの層です。
4. DX(デジタル化)が多能工の価値をさらに高めている
一見するとDXは、
「職人の役割が減るのでは?」
と思われるかもしれません。
しかし実際は逆。
●図面がわかりやすくなる
●工程管理が見える化される
●施工手順が整理される
●重い作業を機械が補助
これにより、
“専門以外の作業”にも取り組みやすくなる環境
が整いました。
つまり、DXは
多能工の成長スピードを加速させるのです。
5. 高齢化した現場を“支える役割”としての多能工
2025年問題でベテランが大量に抜けると、
現場には次のような課題が出てきます。
・教える人がいない
・現場の段取りが回らない
・経験の浅い職人が増える
そこで重要になるのが、
“現場を支えるハブとしての多能工” です。
多能工は、
複数の職種を理解しているため、
・若手に指示しやすい
・現場全体を見て動ける
・工程をつなぐ役割を担える
だからこそ
多能工が一人いるだけで
現場の安定感が大きく変わります。
6. 元請け・ゼネコン側のニーズも“多能工シフト”へ
元請け側も今、
「多能工のいる会社」を優先的に選び始めています。
理由はシンプルです。
・工期が読める
・指示が通りやすい
・品質が安定
・追加工事に即対応できる
専門職しかいない会社より、
“柔軟に動ける会社” の方が評価されやすい時代です。
つまり多能工は、
会社の競争力にも直結します。
7. 多能化が進む未来、職人の価値はどうなるのか?
多能工は今後10年、
さらに価値が高まります。
理由は以下の通り。
●人手不足は続く
●工期短縮ニーズは強まる
●DXで多能化しやすくなる
●若手は幅広いスキルを求める
●元請けが多能工を高く評価する
つまり、
多能工こそが「これからの現場のスタンダード」になる
ということです。
その結果、
・給与は上昇傾向
・現場でのポジションが強くなる
・若手教育の中心になる
・現場管理にも進みやすい
多能工は、
職人キャリアの“新しい正解”になりつつあります。
結論:建設業は“融合型スキル”が勝つ時代へ
分業制の時代は確かに効率的でした。
しかし、
・人手不足
・工期短縮
・DX
・高齢化
・市場の変化
このすべてが
「多能工を求める時代」へと業界を押し出しています。
今後の建設業で求められるのは、
“1つの専門を軸に、複数の武器を持つ職人”
です。
多能工の育成は、
企業にとっても、職人にとっても
大きなチャンスとなります。
分業から融合へ。
これは時代の流れではなく、
建設業が生き残るための“必然”なのです。

