
建設現場には、「この人がいれば現場が回る」と言われる職人がいます。
図面を見ればすぐに段取りができる。仕上がりがきれいで仕事も早い。現場でトラブルが起きても冷静に対応できる。後輩から質問されれば的確に教えられる。
本人にとっては、いつもの仕事。
しかし周囲から見れば、非常に頼りになる存在です。
ところが、そんな腕のいい職人さんと話をすると、意外な言葉が返ってくることがあります。
「俺なんて普通ですよ」
「これくらい、みんなできますよ」
「給料?この業界ならこんなもんじゃないですか」
実は、腕のいい職人ほど、自分が持っている技術や経験を「できて当たり前」と考え、自分自身の市場価値を正しく把握していないことがあります。
あなたが毎日当たり前にやっているその仕事。
本当に「誰でもできる仕事」でしょうか。
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長年の経験が「普通」になってしまう
職人の技術は、突然身につくものではありません。
最初は道具の名前すら分からなかった。
先輩について現場を回り、失敗し、注意され、何度も同じ作業を繰り返す。
そうして少しずつ仕事を覚えていきます。
5年、10年、20年と続けていけば、昔は難しかった仕事も自然にできるようになります。
すると不思議なことに、自分ができることの価値を忘れてしまいます。
図面を読める。
材料を拾える。
一人で施工できる。
現場の段取りができる。
他業種と調整できる。
職長として人を動かせる。
本人からすれば日常です。
しかし、未経験者が明日から同じことをできるでしょうか。
当然できません。
あなたが「普通」と思っていることは、何年もの経験を積み重ねたからこそできることなのです。
「経験10年」だけでは価値は分からない
職人の経歴を説明するとき、
「電気工事10年です」
「防水を15年やっています」
「足場歴8年です」
と経験年数で表現することが多いでしょう。
もちろん経験年数も重要です。
しかし、本当の市場価値を考えるなら、それだけでは足りません。
重要なのは、
「その年月で何ができるようになったのか」
です。
同じ経験10年でも、指示された作業を中心に行う人と、一人で現場を任せられる人では会社から見た価値が違います。
さらに、職長ができる、後輩を育成できる、元請けと打ち合わせができる、工程や安全まで管理できるとなれば、任せられる仕事の範囲はさらに広がります。
だからこそ、自分の価値を「経験○年」だけで判断してはいけません。
何ができるのか、何を任せてもらえるのか。
そこに職人としての本当の強みがあります。
今の会社の評価=あなたの市場価値ではない
ここは非常に大切です。
例えば現在、月給35万円だったとします。
長く同じ会社で働いていると、
「自分の価値は月35万円くらいなんだろう」
と思ってしまうことがあります。
しかし、それは正確には「今の会社が現在あなたに支払っている金額」です。
市場全体でのあなたの価値とは限りません。
会社によって欲しい人材は違います。
職長が不足している会社なら、職長経験者を高く評価するでしょう。
若手が多い会社なら、後輩を育成できるベテラン職人が必要かもしれません。
特定の資格を持つ人が不足している会社なら、その資格と実務経験が大きな武器になります。
今の会社では、
「それくらいできて当然」
と言われていることでも、別の会社では、
「その経験がある人を探していた」
となる可能性があります。
つまり、あなたの市場価値は今の会社一社だけでは決められないのです。
腕のいい職人ほど求人サイトを見ない?
市場価値を知らない理由はもう一つあります。
腕のいい職人ほど、仕事に困っていないことです。
会社から必要とされている。
毎日現場がある。
それなりの給与をもらっている。
取引先からも信頼されている。
そのため、わざわざ求人情報を見る必要がありません。
転職活動もしないので、他社がどれくらいの給与を提示しているのか、自分と同じ経験を持つ人材がどれくらい求められているのかを知る機会も少なくなります。
結果として、
「仕事ができるのに、自分の市場価値だけは知らない」
という状態が生まれます。
これは少しもったいないことです。
市場価値を知る=転職する、ではない
「じゃあ転職した方がいいのか?」
そういう話ではありません。
今の会社に満足しているのであれば、無理に辞める必要はありません。
人間関係がいい。
社長を信頼している。
家から近い。
休みが取りやすい。
仕事が安定している。
長く働いてきた仲間がいる。
給与だけでは測れない価値もたくさんあります。
ただ、自分の市場価値を知っておくことには意味があります。
例えば、
「今の自分なら他社ではどれくらい評価されるのか」
「どんなスキルを持つ職人が求められているのか」
「あと何ができれば、さらに評価が上がるのか」
を知ることができます。
それを知ったうえで今の会社を選ぶのであれば、それも立派な選択です。
大切なのは、知らないまま選択肢を狭めないことです。
自分の「できる」を棚卸ししてみる
一度、自分のスキルを書き出してみてください。
保有資格。
経験した工事。
扱える機械や工具。
一人でできる作業。
図面を読む能力。
現場の段取り。
職長経験。
安全管理。
後輩の教育。
元請けとの打ち合わせ。
トラブルへの対応力。
さらに、
「自分が休んだら現場で何が困るだろう」
と考えてみるのも一つの方法です。
自分が普段何気なく担当していることの中に、実は大きな価値が隠れていることがあります。
職人の能力は、資格や経験年数だけではありません。
現場で積み上げてきた判断力や対応力も立派なスキルです。
これからは「職人が自分の価値を知る」時代へ
これまで建設業界では、
会社が職人を評価し、給与を決める。
という形が一般的でした。
もちろん、それ自体はこれからも変わりません。
しかし人手不足が続き、経験者の価値が高まれば、職人側にも「自分の価値を知る」という考え方が必要になってきます。
自分には何ができるのか。
その能力を必要としている会社はどこなのか。
どれくらいの待遇なら適正なのか。
そして、これからどんなスキルを身につければさらに価値を高められるのか。
こうしたことを考えることで、会社任せではなく、自分自身でキャリアを選べるようになります。
あなたの「普通」は、本当に普通ですか?
腕のいい職人ほど、自分の技術を自慢しません。
むしろ、
「これくらい普通」
と言います。
それは職人として格好いい姿勢かもしれません。
しかし、自分の価値まで低く見積もる必要はありません。
暑い日も寒い日も現場に立ち、何年もかけて身につけてきた技術。
数え切れない現場を経験する中で培った判断力。
後輩を育て、現場を納め、周囲から信頼されるまでに積み重ねてきた経験。
それらには、きちんと価値があります。
今すぐ転職する必要はありません。
ただ、一度だけ考えてみてください。
あなたが「できて当たり前」と思っているその仕事、本当に誰にでもできますか?
そして、その技術を必要としている会社から見たとき、あなたはいくらの価値がある職人なのでしょうか。
腕を磨くことと同じくらい、自分の腕の価値を知ることも大切です。
腕のいい職人だからこそ、自分の市場価値を知っておく。
これからの時代、それも職人として働くうえで大切な「武器」の一つになっていくのではないでしょうか。
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